何が高齢者を、衰えさせるのか?ある高齢女性から、筆者宛てにこのようなメールが届きました。「80歳を迎えたのを機に50年間のアメリカ生活を終えて、日本に帰国しました。日本社会は高齢者に親切にする精神が高く、感心です。一方で、子ども扱いをするような“優しさ”もあり、私も期待される像に沿って“子ども”のように振る舞ってきました。例えば、小股で頼りなげに歩くとか。アメリカ社会では、子ども扱いは期待できないので、脚を伸ばしてできるだけ、(1人で歩けることを示す)独立的姿勢になります。こうした行動が精神的健康と関係があるのかどうか、時々考えます」 このメールの内容は米国の教育心理学者ローゼンタールが提唱した「ゴーレム効果」を思い出させます。周囲の期待が低いと、その人の行動は...2021.07.07 01:07コラム
ロゼトの奇跡 ~高齢期の健康維持、カギは「どんなコミュニティーで暮らすか」1979年に出版された「ロゼト物語」は米国の医師、スチュワート・ウルフらが書いたものですが、高齢期の健康に関する興味深い事実が記述されています。まずは、その概要を紹介します。米国ペンシルベニア州にあるロゼト(Roseto)は19世紀後半、イタリアのある村からの移民たちがつくった千数百人ほどの小さな町。1950~60年にかけた調査で、心臓疾患による死亡率が周囲の町と比べて半分以下だったことで、にわかに注目されるようになりました。飲酒、喫煙、食事、運動といった健康行動や意識、あるいは生活水準などの調査も行われましたが、それらは周囲の町と大して変わりませんでした。 なぜ、ロゼトの住民は心臓疾患にかかる確率がこんなに低いのか。研究者たち...2021.06.06 05:06コラム
元気な高齢者は病院を頼れない。そんな時代にどうすべきか? 2017年の「高齢者の健康に関する調査」(厚生労働省)に「あなたの現在の健康状態」を聞く質問があります。これについて、65~69歳で「よくない」と回答した人(「あまりよくない」「よくない」の合計)は13.0%でした。年齢とともにその割合は多くなりますが、70~74歳で19.1%、75~79歳で26.2%、80歳以上で28.9%です。 80歳以上でも「健康状態がよくない」と回答した人が3割に満たないのですから、高齢者の健康状態(自覚的健康)について、「こんなによいのか」と意外に感じられた人が多いでしょう。しかし、一方で、これとは様相が異なるデータがあります。2021.05.22 10:35コラム
「70歳まで就業」は高齢者を幸せにするのか?「改正高年齢者雇用安定法」が施行されたのは2013年のことです。これにより、企業は(1)定年制の廃止(2)定年の引き上げ(3)継続雇用制度の導入、のいずれかによって、希望する従業員を65歳まで雇用しなければならなくなりました。さらに、今年4月1日の一部改正法施行によって、70歳まで就業できる制度の導入に努めることが義務化されました。このような雇用延長に対して、筆者は当初、高齢期の暮らしに徐々になじんでいくソフトランディングの期間になるのではないかと想像していました。 雇用延長後はほとんどの人がそれまでとは違う役割になりますし、若い人と同じように月曜日から金曜日までフルタイムで、あるいは残業してまで働くわけでもありません。従って、...2021.04.01 03:14コラム
「高齢者は転居でストレス、心身に悪影響」は本当か「リロケーション・ダメージ」という言葉があります。住み慣れた場所から転居(relocation)して、環境が変わることによってストレスが蓄積し、心身に悪影響が及ぶことです。特に高齢者にこのような症状が出やすいとされており、それを恐れて、高齢期の住み替えをためらい、たとえ不便でも老朽化していても寂しくても、それまでの家に我慢して住み続ける人が多いようです。 しかし、筆者は「高齢者はリロケーション・ダメージを受けやすい」という考え方はかなり疑わしいと思います。理由は3つあります。●環境適応力の大きな変化 1つ目の理由は、高齢者にリロケーション・ダメージが多く確認されたのは「生まれ育った地元で一生暮らし続ける」ことが普通だった時代の話だと...2021.03.29 07:30コラム
高齢者にとって「孤独」とは何か?「孤独」は現代社会の大きな問題です。高齢者についても、孤独は心身の衰えを加速しやすく、また、助けが得にくいため体調急変時に放置されたり、孤独死につながったりする危険もあり、その解消は喫緊の課題となっています。 高齢期の幸福を考えるにあたって、孤独の問題は避けては通れません。しかし、孤独を単に「1人でいること」と捉え、1人でいる人は全て「孤独」とみなして助けるべきかというとそんなに単純な話ではありません。いつも1人で街に出て、絵を描いている人、いつも1人で本を読んでいる人が決して「絵画サークルに入れなかった」「読書サークルからのけ者にされた」というわけではないからです。2021.02.12 07:24コラム
老々介護がますます増加傾向に~「令和元年・国民生活基礎調査」解説◆「高齢者のみ世帯」の割合は?令和元年6月時点で日本の総世帯数は、約5,178万世帯で、そのうち、65歳以上の高齢者がいる世帯は約2,558万世帯となり、全世帯の49.4%を占めています。 高齢者のいる世帯のうち、単身が737万、夫婦のみが694万で、これを合わせた1,431万の「高齢者のみ世帯」は全世帯の27.6%となります。要するに、日本の世帯の約半分が「高齢者のいる世帯」で、4世帯に1世帯が「高齢者だけで暮らしている」状況にあるということです。(「高齢者のみ世帯」の男女比は、男性35%、女性65%となっています。) 人口で見てみると、65歳以上の人口は、約3,763万人。そのうち単身で暮らしている高齢者が...2021.01.21 07:24コラム
高齢者の健康維持に必要な「交流」はどうあるべきか高齢期に心身の健康を維持するためには「運動・栄養・交流」の3つが大切であるとされています。高齢者の多くがこれらの点に気を付けており、昔に比べると、元気な人たちが目に見えて増えてきました。2006年に発表された「日本人高齢者における身体機能の縦断的・横断的変化に関する研究」(鈴木隆雄氏)という論文では、歩行速度の観点から、「2002年の高齢者は、1992年の高齢者より10歳程度若返っている」と結論付けています。2002年から20年近くたち、スポーツ庁が実施する「体力・運動能力調査」で、高齢者の身体はさらに若返っていることが分かっているので、今の75歳の体力は30年前の60代前半に相当するくらいになっているのかもしれません。健康維持の3...2021.01.14 02:51コラム
高齢者が失った「世間」日本人には「世間」というものがあり、「世間さまに顔向けできないようなことはしないように」と世間体を気にしながら生きている人も少なくありません。こうした人たちは自分の意思や基準ではなく、また、時には法やルールにも増して、「皆がどうしているか」「これまでどうしてきたか」「周囲が違和感を持たないようにするためには」と考えて、自らの言動を選択します。世間というものの存在を感じさせる言葉も「出るくいは打たれる」「村八分」「身内」「外国人」「ウチでは/ソトでは」「空気を読む」などたくさんあり、最近では「同調圧力」がよく口にされるようになりました。海外には「世間がない」とはいいませんが、日本ほど強くは意識されません。宗教の影響力が強い国では、特に...2020.12.27 02:52コラム
職員による入居者虐待は「サ高住」の老人介護施設化を象徴している?2020年9月、兵庫県明石市のサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)で、職員による入居者への虐待事件が発生しました。神戸新聞の続報によると、職員は80代の男性に一晩で40回以上、殴る蹴るなどの暴行を繰り返したことや、70代の男性入居者にも暴行を加えていたことが明らかになっています。この事件は、サ高住が「老人介護施設」のようになってきていることを象徴する出来事だと感じます。そもそも、サ高住は、自立生活を営んでいる高齢者が高齢期の身体状況などに合った住宅に早めに住み替えることによって、健康で安心して暮らせるようにすることを目的とした住まいで、介護が必要になった人たちのための「施設」とは基本的に異なります。超高齢化時代を迎え、健康寿命を延ば...2020.11.30 02:56コラム
最高齢79歳。シニア男女40人が「チアリーディング」で見つけたもの。「最高齢79歳のシニア世代の男女40人が各所でチアダンスを披露している」。そう聞いて、その様子がすぐにイメージできる人はきっと少ないでしょう。その名も「大阪オトン・オカンチアリーダーズ」。主宰・指導しているのは、関西圏で9カ所のチアダンススクールを展開する企業「JUMPS」(大阪市中央区)の石原由美子さんです。 石原さんはリクルートに在籍時、アメリカンフットボールチーム「ファイニーズ」(現・エレコム神戸ファイニーズ)のチアリーダーとして活躍。2005年に29歳で独立し、「自分の元気さで、周りを元気づける」というチアの精神を広く知ってほしいと、JUMPSを設立しました。 健康長寿の実現に向かって、高齢者の運動や交流の重要性が注...2020.09.23 03:01コラム
超高齢化社会における、“新しい親孝行”とは?「親孝行、したい時分に親はなし」。親のありがたみが分かる年頃になり、親孝行をしたいと思うようになったときには、もう親はこの世にいない――。そうした後悔や嘆きを表現した言葉です。 実際にその昔、70代で死ぬ人が多かったような時代では、そのとき、子どもは40代中盤。働き盛りで仕事に忙しく、子どもは学生なのでまだ手がかかり、親まで気が回らないという状況だったでしょう。しかし、仕事や子育てが一段落して、親孝行をする余裕ができたときには、もう親はこの世にいない…。「親孝行、したい時分に親はなし」は「さりとて、墓に布団は着せられず」と続くようですが、まさに、「何の孝行もできなかった」と実感した人が多かった時代だと思います。 “超高齢社会”...2020.09.12 07:30コラム