孫はかわいいが「3日以内に帰ってほしい」?高齢者に関する研究活動を行う筆者は先日、ある高齢女性に、ご自身が詠まれた短歌を見せていただく機会がありました。「楽しみは 年に三回 孫が来て 三日以内に帰りたるとき」。思わず笑ってしまいましたが、高齢者にとっての孫の存在というものがよく分かります。 孫はとてもかわいいし、会いたいと思うが、あまり長くいられると疲れてしまう。盆、正月、ゴールデンウイークと年に3回くらい来て、2泊して帰ってくれるくらいがちょうどよい、という本音が表れています。(ちなみに、「たのしみは」から始まって「とき」で終わる形式は、幕末の歌人・橘曙覧の「独楽吟」から取ったものです) 孫はかわいいけれど、年も違えば話が合わないし、体力が違い過ぎるから一緒に長くは遊べな...2024.09.17 01:38コラム
「健康な高齢化の10年」を見据えた、日本の課題。 あまり知られていませんが、2020年の国連総会において、2021年から2030年をその期間として「健康な高齢化の10年」が採択されています。日本は世界で最も高齢化が進んでいる国ですが、他の多くの国でもこれから高齢化が進んでいくので、それを見据えたものであり、SDGsにも連動した宣言です。これを受けて、世界保健機関(WHO)は「4つの行動計画」を提唱しました。 今回は、「4つの行動計画」の内容に照らしながら、日本の取り組み課題を見ていきたいと思います。2024.07.31 03:42コラム
「高齢者」の格好いい呼び方は?(高齢者の呼び方に関する調査結果)高齢期のライフスタイルについて調査・研究する、NPO法人「老いの工学研究所」は、このたび、高齢者の呼称について調査を行いました。その結果についてお知らせ致します。「シニア」をポジティブな呼称だと感じる割合は、年齢とともに減少。 70歳代で3人に1人、80歳代では半数以上が、最もポジティブな言葉として「シニア」を選択せず。2024.07.02 08:05コラム
健康な高齢者は、近所の人たちと仲がいい。 今年3月、筆者が理事長を務める高齢者研究のNPO法人「老いの工学研究所」で、「同じ地域に住む人たちに対する感情」と「健康や幸福」との関係について調査を行いました。回答者は、65~89歳までの318人(平均年齢76.1歳)です。2024.06.24 03:24コラム
高齢期にも必要な「ターニングポイント」とは?「キャリアの8割は、偶然の出来事で決まる」と言ったのは、アメリカ・スタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授。優れたキャリアは、多くの場合、事前に想定していなかった出会いや経験をうまく捉えたことがターニングポイントとなって出来上がるのであって、事前の計画によって築かれるものではないという「計画的偶発性理論」です。「職業人生においては、将来の目標を明確にし、そこから逆算するように自らの学びや経験などについて計画を立て、それを着実に実行していくことが重要だ」という“キャリアデザイン”とは真逆の考え方といえますが、キャリア理論として広く支持されています。多くの人に、そのような実体験があるからでしょう。2024.06.10 00:58コラム
日本の高齢者の、住まいに関する意識に変化の兆し。日本、アメリカ、ドイツ、スウェーデンの60歳以上の人を対象とした「高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」が、5年に一度、内閣府によって行われています。第9回となった2020年度の調査結果を見ると、ある設問に対する回答の大きな変化が目を引きます。 それは「現在、住んでいる住宅の問題点」という設問です。「何も問題を感じていない」という人が31.9%と、第8回(2015年度)の59.7%からおおよそ半減しました。第5回(2000年度)は45.0%、第6回(2005年度)は55.0%、第7回(2010年度)は55.5%となっていて、「住んでいる住宅に問題を感じていない」人が増加傾向にあったものが一転、大きく減ったことになります。 住んでい...2024.05.27 05:00コラム
食品スーパーの存在が、高齢期の健康維持につながる理由 食品スーパーが歩いて行ける近い場所にあるのは、高齢者にとってとても大事なことだと、高齢者に関する研究活動を行う筆者は思っています。 第一に、買い物と料理が習慣になります。何を作ろうかと考えをめぐらせ、調理・盛り付け・洗い物・片付け…と知らないうちに頭も体も使います。これを毎日行う人とそうでない人には、心身の状態に差が出てくるでしょう。 第二に、自分で作るから食べたいものを食べられるでしょうし、栄養面にも気を配ります。そして第三に、スーパーまで毎日歩くことがよい運動になり、知り合いに出会って立ち話をするきっかけにもなります。 食品スーパーの存在によって、運動・栄養・交流といった高齢期の健康維持にとって重要な要素が、自然に満たされると...2024.05.07 01:30コラム
健康診断の結果では、健康かどうかは分からないのは、なぜか。「健康とは、肉体的、精神的及び社会的に完全に良好な状態であり、単に疾病または病弱の存在しないことではない」。世界保健機関(WHO)憲章による健康の定義は、よく知られるところです。筆者は2010年頃から高齢者研究を続けていますが、ここ10年くらいで、高齢者の健康観はかなりこれに近づいてきたように感じます。「とにかく長生きしたい」という高齢者は減り、「高齢期をどう生きるか」という人生の質を重視する人が増えました。肉体的な健康を目的とし、健康診断や人間ドックで問題がなければそれで満足というのではなく、心の豊かさや社会や地域とのつながりを持つことを大切にし、人生を楽しむためのあくまで“手段”として、身体の状態に気を付けているという人が多くな...2024.04.15 01:28コラム
「ピンピンコロリ」は、既にほぼ実現している。「理想の死に方」を尋ねると、多くの高齢者が「ピンピンコロリ」と回答されます。その意味は、家族の手を必要以上に煩わせることなく、自立生活ができて、自分らしい暮らしぶりを維持しながら最期を迎えたいということです。「何で死にたいですか?」といった直球の質問をすると「がん」と即答される方が結構多いのも、そのように死ぬことができる可能性が高いのが「がん」だと考えておられるからでしょう。さて、この「ピンピンコロリ」ですが、いくつか調べてみると、「亡くなる直前まで病気に苦しむことなく、元気に長生きし、最後は寝込まずにコロリと死ぬこと」「死ぬ直前まで元気で過ごし、病気で苦しんだり、介護を受けたりすることがないまま天寿を全うすること」とされています。...2024.02.26 02:34コラム
葬儀で“故人”が最期のあいさつ 「生前ビデオ」“日本一背が高いアナウンサー”として人気を博した、元毎日放送アナウンサーの子守康範さんが、自身が経営する会社・アンテリジャン(大阪市北区)で、「生前ビデオ」という事業を開始されました。生きている間に、自分の葬儀で参列者に感謝の言葉などを述べるあいさつを撮っておくというもので、高齢者向けのサービスや商品の中でも、とてもユニークで意義ある取り組みです。2024.02.19 01:14コラム
「若者のような高齢者」と「年寄りのような若者」 広告大手の博報堂が、現代を「消齢化社会」と称しています。意識や好み、価値観などについて、年齢による違いが小さくなっている状態を指していて、食べ物、服装、住宅、お金、人間関係、恋愛、行事など、さまざまな側面で、世代間の考え方や行動の差異がなくなってきていると指摘しています。 具体的には、2002年から20年間の調査「生活定点」(設問数1024、博報堂生活総合研究所)で、年代による違いが大きくなったのが27項目であったのに対し、年代による違いが小さくなったのは172項目に上ったといいます。1992年からの30年間でも(比較可能な設問数は366)、年代による違いが大きくなったのが7項目。年代による違いが小さくなったのは70項目に上ってい...2024.01.09 02:22コラム
高齢化が進んでいるのに、「老人クラブ」の会員数が激減してるのは、なぜか? 全国に8万5000以上の数がある「老人クラブ」。高齢者を会員とし、健康づくりのためのスポーツや社会参加などの活動を行う、地域を基盤とした自主的な組織です。会員数は、1998年の887万人をピークに、2022年は438万人と大きく減少しています。65歳以上の高齢者人口は、1998年の2051万人から、2022年に3623万人と大きく増えているので、一見すると不思議に感じます。 老人クラブに加入している人の割合は43%から12%にまで激減しているわけですが、その理由は何なのでしょうか。考えてみたいと思います。 第一に、高齢者が「少数派」ではなくなったことです。1998年の高齢化率(総人口に対する高齢者の割合)は16%でしたが、2022...2023.10.16 00:52コラム