高齢者の免許返納問題から見えてくる、高齢期に相応しい住環境とは?2019年に東京都豊島区で、当時87歳の男性が運転する車が暴走して交差点に進入後、歩行者や自転車に乗った人らをはね、計11人が死傷する痛ましい事故が発生しました。この「池袋暴走事故」の発生を契機に、高齢ドライバーによる事故防止を目的として運転免許の自主返納が推進されるようになりました。しかし実際にどれくらいの人が免許を返納しているのでしょうか。75歳以上の免許返納率は2019年に6.2%でしたが、2020年以降は徐々に減り、2024年は3.6%です。「危ないから返納すべきだ」という声も根強く、行政からの呼び掛けも継続されていますが、免許返納が進んだとは言えません。2026.03.09 01:29コラム
年をとると、なぜ「マイホーム」に不満を感じるのか? 誰にとっても住み心地の良い家や環境というものは、ありません。ライフスタイルや家族構成、価値観や趣味、嗜好(しこう)などがそれぞれ異なるからで、同居している家族でも、住み心地は人によって違います。 高齢者と現役世代とでは、良好な住環境は同じではありません。若い頃から気に入って住んできた家や住み慣れた環境が、年を取るとともに不都合や不満を含んだものに変わっていくのも、そういう理由です。では、高齢者と現役世代で、家や環境に対する考え方や求めるものがどう違うのか、比較しながら考えてみたいと思います。●家に求めるものは、高齢期と現役世代で大きく異なる。 第一に、現役世代にとって「家は、拠点」であるのに対し、仕事を引退した高齢世代にとって「家...2026.02.16 00:49コラム
本当の「ケア付き住宅」とは。「ケア付き住宅」という言葉を聞くと、多くの人は、介護や看護の専門資格を持っている人が常駐していて、手厚いサービスが施されている住まいを思い浮かべると思います。実際、“看護師常駐”を売りにしている集合住宅がありますし、高齢者住宅の検討者の中にはそのような住宅が「何かあったときに安心」といった声があるのも事実です。 しかし、考えなければならないのは、「『手厚いサービス』『何でもしてくれる』のが果たして“ケア”なのか」ということであると、高齢期のライフスタイルの研究を行う筆者は思います。ケアとは本来、自立を支援することであり、介護保険法の第1条にも、「(要介護状態になっても)尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことがで...2025.11.17 01:11コラム
「喪失と付き合う期間」に最も失ってはいけないものは何か 先日、2冊の本が届きました。私が高齢者研究の場としてお世話になっている「中楽坊(ちゅうらくぼう)」という高齢者住宅で暮らしていた男性が、長い間書きためていた詩歌、エッセイ、旅行記などがまとめられたもので、それぞれ220ページほど、ご本人が書いた絵を表紙画にして美しく装幀された本です。2025.09.16 03:48コラム
高齢者が七夕の短冊にしたためたのは、「自分のことより他者の幸せ」 七夕には、「宝くじに当たりますように」といった幸運や、「◯◯に合格できますように」などの目標達成を願って短冊にしたためるのが定番です。しかし、高齢者に限ると、どのような願い事が多いのだろうか――。高齢期のライフスタイルの研究を行う筆者は、そんな興味から、とある高齢者住宅の協力を得て、七夕にロビーに飾られた短冊を提供いただき(名前などを除き内容のみ)、分析を行いました。●七夕の短冊に書かれていたこと 計337枚の短冊に書かれた内容を分類した結果、最も多かったのは、「他の入居者やマンション全体の健康や幸福を願う内容」(27.6%)で、「自分の健康や幸福を願う内容」(24%)を上回りました。具体的には「皆さまが、いつまでも幸せであります...2025.07.28 04:30コラム
欧州では一般的な「高齢者のプライマリーケア」が日本で期待できない理由「プライマリーケア」とは、「身近にあって何でも相談に応じてくれる、総合的かつ継続的な医療」といった意味の言葉で、健康状態の把握やアドバイス、応急的な処置・治療、訪問診療のほか、状況に応じて専門医を紹介するといった機能などを担うものです。特に高齢者については、病気になると重くなりやすく、元に戻るにも困難を要するので、初期の段階で何でも相談できるプライマリーケアがより重視されるようになってきました。しかし実際には、何でも診ることができる医師は多くないため、「専門ではない」と断られたという話はよく耳にしますし、調子が悪いけれどどこに行けば診てもらえるか分からない、急に行ったら「先生がいない」「今日は忙しい」と断られる……というようなケース...2025.06.02 05:48コラム
高齢期の幸福は、アンチエイジングでなく『アジャスト・エイジング』。 デンマークで提唱され、今では高齢期のウェルビーイングに関する基本的な考え方として、世界で広く支持されている「高齢者福祉の3原則」。(1)生活の継続性(2)自己決定(3)残っている能力の活用―の3つから成りますが、デンマークをはじめとする北欧の高齢者の高い幸福感は、この3原則の浸透や徹底によるものと言ってよいでしょう。 日本でも「高齢者福祉の3原則」はよく知られるところですが、その中で「生活の継続性」についてはやや誤解があると、高齢者に関する研究活動を行う筆者は考えます。「生活の継続性」が、“同じところに住み続けること”と理解されがちであるからです。「生活の継続性」とは、できるかぎり現役時代と同じような生活スタイルを続けるということ...2025.04.14 06:13コラム
松尾芭蕉に学ぶ、「終の棲家」探しの基準。高齢者人口が増えるに従い、さまざまな形の高齢者住宅(主として分譲や賃貸)や、老人ホームなどの施設(主として利用権方式)が登場し、住み替えを検討する人たちも増えています。お話を聞くと、多くの人が“終の棲家(ついのすみか)”と口にされますが、高齢者に関する研究活動を行う筆者は時々、そのニュアンスに違和感を抱きます。ニュアンスをくんで具体的に言えば、「自分が重い介護状態になって自立生活ができなくなっても、身の回りのいろいろな世話をやってくれる人が、ずっと面倒を見てくれるところであるかどうか」というようなことです。そして、「介護施設でしか最後まで住めないのでは?」と考える人は少なくありませんし、老人ホームや介護施設が運営するサイトなどにも、...2025.02.25 03:02コラム
高齢期の幸福は、「ゴリラ」に学べ。2014年に発刊されて話題になった「サル化する人間社会」(山極寿一・著)は、和を重視して勝ち負けがなく、仲間をいたわり合う「ゴリラ社会」と、序列が厳格で個々の利益と効率を重視する「サル社会」を分け、人間の社会が「サル社会」にどんどん近づいていると警鐘を鳴らしています。例えば「食べる」という行為について、ゴリラは仲間と食べ物を分け合う一方、サルはまったく異なるようで、山極先生は毎日新聞の連載で次のように述べておられます。「サルの食事は人間とは正反対である。群れで暮らすサルたちは、食べるときは分散して、なるべく仲間と顔を合わせないようにする。(中略)食物が限られていれば、仲間と出くわしてしまうことがある。そのときは、弱い方のサルが食物か...2025.01.20 03:40コラム
「高齢者の実態」は、不安をあおるためのデータでは見えてこない。厚生労働省による「令和5年簡易生命表」によると、0歳の男の子の平均余命は81.09年、女の子は87.14年となりました。これは「平均寿命」として毎年発表され、広く使われます。一方、健康寿命は男性が73.08歳、女性が75.90歳で、これは0歳の子が、平均的に何歳で「健康上の理由で日常生活に制限がある」状態になるかを意味します。この2つの数字を使って、「平均寿命と健康寿命の差は、男性が8年、女性が12年…」という具合に、介護や介助を要する期間が、かなり長いことを強調する広告をよく目にします。しかし、高齢者に関する研究活動を行う筆者が忘れてはいけないと考えるのは、これは「0歳の子」の話であるということです。高齢者には関係がありません。●...2024.12.23 05:59コラム
「手を後ろに回したケア」とは何か。優れた高齢者住宅では、入居してからどんどん元気になる人や、機能が回復していく人が少なくありません。例えば、「車いすや、つえを使っていた人が普通に歩けるようになる」「やわらかいものしか食べられなかった人が、カツ丼を食べられるようになる」「買い物も掃除もできずヘルパーさんに任せっきりだった人が、普通にできるようになった」など、そんな例は枚挙にいとまがありません。私たちは「高齢になると身体的に衰えていく一方で、元に戻ることはない」と考えてしまいがちですが、実は全くそうではないわけです。問題は、若い人たちも高齢者自身も「年を取ると衰える一方だ」と思ってしまうことであると、高齢者に関する研究活動を行う筆者は考えます。そうすると、若い人はお年寄...2024.11.05 01:38コラム
孫はかわいいが「3日以内に帰ってほしい」?高齢者に関する研究活動を行う筆者は先日、ある高齢女性に、ご自身が詠まれた短歌を見せていただく機会がありました。「楽しみは 年に三回 孫が来て 三日以内に帰りたるとき」。思わず笑ってしまいましたが、高齢者にとっての孫の存在というものがよく分かります。 孫はとてもかわいいし、会いたいと思うが、あまり長くいられると疲れてしまう。盆、正月、ゴールデンウイークと年に3回くらい来て、2泊して帰ってくれるくらいがちょうどよい、という本音が表れています。(ちなみに、「たのしみは」から始まって「とき」で終わる形式は、幕末の歌人・橘曙覧の「独楽吟」から取ったものです) 孫はかわいいけれど、年も違えば話が合わないし、体力が違い過ぎるから一緒に長くは遊べな...2024.09.17 01:38コラム