高齢者の体力が向上した理由。「ギャップシニア」より重要な問題は何か? 高齢者を取り巻く環境で、平成・令和の時代における最も大きな変化は「3世代同居」の激減です。65歳以上の人がいる世帯のうち、3世代同居は1989年に40.7%ありましたが、2019年には9.4%にまで減っています。子や孫の助けを受け、また、子や孫との関わりの中で憩いや癒やしを得ながら暮らす高齢者はこの30年で、4分の1になってしまったということです。 同じ期間、高齢者の1人暮らし世帯は14.8%から28.8%と約2倍になりました。高齢の夫婦のみの世帯も20.9%から32.3%と約1.5倍になっています。このような大きな環境変化を見れば、高齢期の孤独・孤立が問題になるのは当然ですし、“キレる高齢者”が増えているという問題は、承認欲求を...2021.09.11 09:31コラム
「高齢期の健康を支えるもの」は?筆者が理事長を務めるNPO法人、老いの工学研究所で今年6月、「高齢期の健康を支えているもの」について調査を行いました(50歳以上の432人が回答)。「現在のあなたの健康維持に、大切な役割を果たしているものは何ですか?」と質問し、21項目から選択(複数回答可)していただきましたが、比較的若い世代と高齢の世代とで大きく違う項目がありました。2021.08.08 10:58コラム
「令和3年・高齢社会白書」解説老いの工学研究所・事務局長:田中利和令和3年度の内閣府高齢社会白書が公表されましたので、ポイントを解説します。1.高齢者人口および住まい方日本の総人口は2019年10月1日現在で1億2,617万人、65歳以上の人口は 3,589万人で総人口に占める割合は28.4%となっています。男女比は約3対4となっており、65~74歳の人口は総人口の13.8%、75歳以上の人口は総人口の14.7%であり、75歳以上の人口が上回っています。高齢者(65歳以上)人口は団塊の世代が75歳以上となる令和7年(2025年)には3,677万人になると想定されており、当面増加傾向が継続します。一方、65歳以上の方が居る世帯は2018年時点で全世帯数の48.9%...2021.07.08 08:57コラム
何が高齢者を、衰えさせるのか?ある高齢女性から、筆者宛てにこのようなメールが届きました。「80歳を迎えたのを機に50年間のアメリカ生活を終えて、日本に帰国しました。日本社会は高齢者に親切にする精神が高く、感心です。一方で、子ども扱いをするような“優しさ”もあり、私も期待される像に沿って“子ども”のように振る舞ってきました。例えば、小股で頼りなげに歩くとか。アメリカ社会では、子ども扱いは期待できないので、脚を伸ばしてできるだけ、(1人で歩けることを示す)独立的姿勢になります。こうした行動が精神的健康と関係があるのかどうか、時々考えます」 このメールの内容は米国の教育心理学者ローゼンタールが提唱した「ゴーレム効果」を思い出させます。周囲の期待が低いと、その人の行動は...2021.07.07 01:07コラム
ロゼトの奇跡 ~高齢期の健康維持、カギは「どんなコミュニティーで暮らすか」1979年に出版された「ロゼト物語」は米国の医師、スチュワート・ウルフらが書いたものですが、高齢期の健康に関する興味深い事実が記述されています。まずは、その概要を紹介します。米国ペンシルベニア州にあるロゼト(Roseto)は19世紀後半、イタリアのある村からの移民たちがつくった千数百人ほどの小さな町。1950~60年にかけた調査で、心臓疾患による死亡率が周囲の町と比べて半分以下だったことで、にわかに注目されるようになりました。飲酒、喫煙、食事、運動といった健康行動や意識、あるいは生活水準などの調査も行われましたが、それらは周囲の町と大して変わりませんでした。 なぜ、ロゼトの住民は心臓疾患にかかる確率がこんなに低いのか。研究者たち...2021.06.06 05:06コラム
元気な高齢者は病院を頼れない。そんな時代にどうすべきか? 2017年の「高齢者の健康に関する調査」(厚生労働省)に「あなたの現在の健康状態」を聞く質問があります。これについて、65~69歳で「よくない」と回答した人(「あまりよくない」「よくない」の合計)は13.0%でした。年齢とともにその割合は多くなりますが、70~74歳で19.1%、75~79歳で26.2%、80歳以上で28.9%です。 80歳以上でも「健康状態がよくない」と回答した人が3割に満たないのですから、高齢者の健康状態(自覚的健康)について、「こんなによいのか」と意外に感じられた人が多いでしょう。しかし、一方で、これとは様相が異なるデータがあります。2021.05.22 10:35コラム
「70歳まで就業」は高齢者を幸せにするのか?「改正高年齢者雇用安定法」が施行されたのは2013年のことです。これにより、企業は(1)定年制の廃止(2)定年の引き上げ(3)継続雇用制度の導入、のいずれかによって、希望する従業員を65歳まで雇用しなければならなくなりました。さらに、今年4月1日の一部改正法施行によって、70歳まで就業できる制度の導入に努めることが義務化されました。このような雇用延長に対して、筆者は当初、高齢期の暮らしに徐々になじんでいくソフトランディングの期間になるのではないかと想像していました。 雇用延長後はほとんどの人がそれまでとは違う役割になりますし、若い人と同じように月曜日から金曜日までフルタイムで、あるいは残業してまで働くわけでもありません。従って、...2021.04.01 03:14コラム
「高齢者は転居でストレス、心身に悪影響」は本当か「リロケーション・ダメージ」という言葉があります。住み慣れた場所から転居(relocation)して、環境が変わることによってストレスが蓄積し、心身に悪影響が及ぶことです。特に高齢者にこのような症状が出やすいとされており、それを恐れて、高齢期の住み替えをためらい、たとえ不便でも老朽化していても寂しくても、それまでの家に我慢して住み続ける人が多いようです。 しかし、筆者は「高齢者はリロケーション・ダメージを受けやすい」という考え方はかなり疑わしいと思います。理由は3つあります。●環境適応力の大きな変化 1つ目の理由は、高齢者にリロケーション・ダメージが多く確認されたのは「生まれ育った地元で一生暮らし続ける」ことが普通だった時代の話だと...2021.03.29 07:30コラム
高齢者にとって「孤独」とは何か?「孤独」は現代社会の大きな問題です。高齢者についても、孤独は心身の衰えを加速しやすく、また、助けが得にくいため体調急変時に放置されたり、孤独死につながったりする危険もあり、その解消は喫緊の課題となっています。 高齢期の幸福を考えるにあたって、孤独の問題は避けては通れません。しかし、孤独を単に「1人でいること」と捉え、1人でいる人は全て「孤独」とみなして助けるべきかというとそんなに単純な話ではありません。いつも1人で街に出て、絵を描いている人、いつも1人で本を読んでいる人が決して「絵画サークルに入れなかった」「読書サークルからのけ者にされた」というわけではないからです。2021.02.12 07:24コラム
老々介護がますます増加傾向に~「令和元年・国民生活基礎調査」解説◆「高齢者のみ世帯」の割合は?令和元年6月時点で日本の総世帯数は、約5,178万世帯で、そのうち、65歳以上の高齢者がいる世帯は約2,558万世帯となり、全世帯の49.4%を占めています。 高齢者のいる世帯のうち、単身が737万、夫婦のみが694万で、これを合わせた1,431万の「高齢者のみ世帯」は全世帯の27.6%となります。要するに、日本の世帯の約半分が「高齢者のいる世帯」で、4世帯に1世帯が「高齢者だけで暮らしている」状況にあるということです。(「高齢者のみ世帯」の男女比は、男性35%、女性65%となっています。) 人口で見てみると、65歳以上の人口は、約3,763万人。そのうち単身で暮らしている高齢者が...2021.01.21 07:24コラム
高齢者の健康維持に必要な「交流」はどうあるべきか高齢期に心身の健康を維持するためには「運動・栄養・交流」の3つが大切であるとされています。高齢者の多くがこれらの点に気を付けており、昔に比べると、元気な人たちが目に見えて増えてきました。2006年に発表された「日本人高齢者における身体機能の縦断的・横断的変化に関する研究」(鈴木隆雄氏)という論文では、歩行速度の観点から、「2002年の高齢者は、1992年の高齢者より10歳程度若返っている」と結論付けています。2002年から20年近くたち、スポーツ庁が実施する「体力・運動能力調査」で、高齢者の身体はさらに若返っていることが分かっているので、今の75歳の体力は30年前の60代前半に相当するくらいになっているのかもしれません。健康維持の3...2021.01.14 02:51コラム
高齢者が失った「世間」日本人には「世間」というものがあり、「世間さまに顔向けできないようなことはしないように」と世間体を気にしながら生きている人も少なくありません。こうした人たちは自分の意思や基準ではなく、また、時には法やルールにも増して、「皆がどうしているか」「これまでどうしてきたか」「周囲が違和感を持たないようにするためには」と考えて、自らの言動を選択します。世間というものの存在を感じさせる言葉も「出るくいは打たれる」「村八分」「身内」「外国人」「ウチでは/ソトでは」「空気を読む」などたくさんあり、最近では「同調圧力」がよく口にされるようになりました。海外には「世間がない」とはいいませんが、日本ほど強くは意識されません。宗教の影響力が強い国では、特に...2020.12.27 02:52コラム